2012-12-26

2012年12月,ミュンヘン(2),アルテ・ピナコテーク

  ミュンヘン2日目の朝,雪の予報でしたが曇り空です。アルテ・ピナコテークに徒歩で向かうことにします。ホテルのある街の中心部からは北西方向に15分くらい。途中,カール・リヒターと縁の深い聖マルコ教会の前を通ると,沈丁花のよい香り。

 さて,美術館に到着。巨大な建物の割には小さな正面扉のノブを開けて中に入ります。ノイエ・ピナコテーク,ピナコテーク・モデルネも何とか1日で回りたいので,当日有効の共通チケットを購入。インフォメーションはとても親切で,ドイツ語は話せないと言うととても丁寧な英語でチケットの使い方を説明してくれました。「一番大切なことは,今日一日このチケットを失くさないことです」は至言。

 1階でまずフリューゲル「怠け者の天国」などのフランドル絵画を楽しんで,2階の中世ドイツ絵画の展示室へ。ここでデューラーの「自画像」(1500年)を観るのが今回の旅の大きな目的の一つ。2011年3月放送のNHK日曜美術館「デューラーの聖と俗」のミュンヘンロケを見て,司会を務めていた姜尚中氏の「あなたは誰?私はここにいる」(集英社新書)を読んだのがきっかけです(かなりミーハーな動機)。

 この本では,留学先のミュンヘンで鬱々とした日々を送っていた若き日の著者に,デューラーの自画像が光を投げかけたその出会いが綴られています。いつか実物を見にいきたいなあという願いがかなって,その強烈な自我を表現する絵を前に思わず足がすくむ思い。ほんとに来てしまった!

 絵の前でいつまでも立ち去りがたい私の耳には「わたしはここにいる。おまえはどこに立っているのだ」(p14より引用)とは響いてきません。さすがに,人生を(とっくに)折り返して自分探しの旅でもないな。私はここに立っております,と胸をはって言える気もしないでもない。

 そんなことを考えてじいっと絵を見ていると,500年以上前に28歳だった画家その人から「わたしはここにいる。さあ,もう行きなさい」と言われている気がしてきました。そうだ,今日はまだまだ美術館を回るんだった。では,もう行くことにします。あなたはずっとここにいてください。

  若き日の青年にとっての運命の1枚はこうして,私にとってはまたいつかこの場所に会いに来よう,という指標のような1枚になりました。そして何とはなく心浮き立つ思いで,クラナーハやヒエロニムス・ボス,エル・グレコ,レオナルド…と,ヴィッテルスバッハ家歴代君主のめくるめく所蔵品を見に,展示室を後にしたのでした。

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